#たべる

丹後の豊かな食文化を味わう
ライスミルクジェラート工房『コメトテ』

橋田佳広さん

2022.07.22

#たべる #地元民 #Bエリア_日置_府中

Bエリア_日置_府中

2022年3月、府中エリアに誕生した、ライスミルクを使った手作りジェラート工房「コメトテ」。京都市内で20年間イタリアンの修業を積んだ橋田佳広さんがUターン後に立ち上げ、以来オンラインを中心にじわじわ人気を集めています。
今回は工房を訪ね、食材へのこだわりや、ちょっとユニークな工房名に込めた思いについて伺いました。

丁寧な手作業が生む優しい味わい

——「コメトテ」では、どんなジェラートをつくっているんですか?

うちは、お米からできたミルクと、丹後地方で採れた野菜や果物をコラボし、ライスミルクジェラートを作っています。牛乳に比べてくせがなく、植物性なので乳製品アレルギーの人やベジタリアン、肉、魚、卵、はちみつなどを避けるビーガンの人にもおいしく食べてもらえますよ。

——ライスミルクって、最近スーパーでもよく見かけますね。

はい、市販されているものもあるけど、うちはお米を仕入れるところから始まり、丁寧に火で炒った後、水や塩、こめ油などを入れてとろみをつけ、一から手作りしてます。いろいろ手間がかかるんやけど、やっぱりジェラートにした時に違いが出るんで。

——牛乳に比べてスッキリとした印象で、その分、コラボさせたトマトや小豆の味が生きている気がします。口の中にみずみずしい風味がふわっと広がっていく感じ!

そうですね、作物の持つパワーを存分に味わってほしいから、トマトなら、実も皮もタネも全部まるごと入れているんです。あと同じ農家さんから届くトマトでも、そのままカットしたものと、ちょっと火を入れたもの、あえて2種類ミックスし味に奥行きをだしてます。小豆の場合も、ライスミルクに煮汁を入れて風味付けしたり、機械を使わず手で潰して粒のほっくりした食感を残したり。コラボする野菜や果物によって、調理法も微妙に変えてるんです。

——だから、それぞれの良さがダイレクトに感じられるんですね。

一番良いのは、冷凍庫から取り出した後、少し常温で溶かしてスプーンで混ぜながら食べること。人って温度によって味の感じ方が違うから、冷蔵庫から出したカチカチの状態では、低温すぎて甘さばかりが目立ってしまうんで。ちょっと置いて、ジェラートのカップの側面が少し柔らかくなってきたあたりで、スプーンで空気を含ませるように混ぜると、なめらかな食感が出て、野菜や果物の風味もグンと増すんですよ。

そう言うと手早くやってみせてくれた。食べ比べると確かに全く違う舌触りに。

格別の味を生み出す、食の宝庫・丹後

——どんな種類のフレーバーがあるんですか?

定番は、世屋エリアにあるチャントセヤファームさんの無農薬コシヒカリ米と京丹後産の米麹で作った「シロ」で、お米の優しい甘さが香る、さっぱりとした味わいです。
あとは、京丹後市にある福喜農園さんから取り寄せた「ほうじ茶」や、伊根町薦池(こもいけ)地区でできた菰池大納言という小豆を使った「お赤飯」、宮津市内の瀬戸さんから仕入れた丹後の名産「わかめ」。それと、今の時期なら宮津産の「トマト」。いつも全部で10種類くらいラインナップを揃えてます。

——本当に、全て丹後産なんですね。

コラボする野菜や果物だけでなく、ライスミルクに使うお米はチャントセヤファームさんの無農薬コシヒカリ米を使い、そこに数種類のコシヒカリをブレンドしています。あと、水は府中エリアの真名井地区の地下水。わざわざ汲みに行くのが大変やけど、やっぱりあそこの水は、まろやかで甘みがあって、お米との相性もいいので。
僕は長年、料理人として日本各地の食材を調理してきましたけど、やっぱり丹後でとれたものは味に力がある。魚介類は当然のこと、このあたりは栄養分を含んだ雪解け水が山から流れ、昼夜の寒暖差もあって、農作物を育てる条件が揃ってるんです。だからお米も野菜も果物も、ミネラル分が多く、甘みの詰まったおいしいものが育つ。地元の人は毎日食べてるから特に意識してないけど、丹後のお米って、日本穀物検定協会が定める米の食味ランキングで、関西で最も多く「特A」を受賞してるんですよ。

「コメトテ」という名前に込めた思い

——そんな上質なお米を毎日食べられるなんて……。うらやましいです!

僕も最初は知らなかったんですけど、調理をきっかけに丹後地方の食材に興味を持つようになって。一軒々々農家さんを訪ねて話を聞いたり、畑で採れた作物を食べさせてもらったりすると、徐々に理由が分かるようになってきました。
今、うちが仕入れているのは、その中で出会った農家さんたちのものばかり。みんな、自分の考えをしっかり持って、試行錯誤しながら一生懸命作っている人ばっかりで。お米を仕入れているチャントセヤファームさんの場合、農薬や化学肥料を一切使わず、作物が持つ本来の力だけで育てています。秋に収穫した後も、稲木干しといって、木で組んだ柱にみんなで一束ずつ稲穂をかけて天日干しにし、最後までおいしくするための努力を惜しまない。
もちろん、無農薬栽培や自然栽培のところばかりではないですけど、自分たちの手で責任を持って育てている作り手さんばかりで。こういう畑で育った作物って、やっぱパワーがあっておいしいんですよ。大きさや味に個体差があっても、それがかえって面白くて。よし、これをどう生かすかが料理人の腕の見せ所だなって気になるんです。

——実直な作り手さんから仕入れているんですね。

そうですね、話を聞けば聞くほど、熱い思いを持っている作り手さんがたくさんいることに気づかされます。京都市内から宮津にUターンしライスミルクジェラートを作ろうと決めたのも、この地方のおいしい農作物と、育てている作り手さんのことをみんなに伝えたいという気持ちが強くて。だから工房の名前も、ライスジェラートに使う「コメ」と、作り手の「テ」をとって「コメトテ」。ジェラートをきっかけに、もっとたくさんの人に知ってもらいたいと思って付けました。

日本、そして海外へ 丹後の魅力を届ける

——そんなメッセージが込められていたとは、知りませんでした。

ちなみに、ジェラートの商品名は、海外の人でもお米をイメージしやすい「OMUSUBI」っていうんです。丹後のご当地ジェラートとして世界中の人に知ってもらいたいから、みんなが知っている名前にしました。

——今の時代、オンラインで世界中とやりとりできますから、今後が楽しみです。

そうですね。今後もいろんなところとコラボしたいと思っていて、今、動き出しているのが、陶芸家と木工職人と組んだ企画。ジェラートを陶器に盛り付け、木製のスプーンでいただくっていう、ちょっと贅沢なセットを考えていて、贈答用なんかに使ってもらえたらいいなって。
あと、商品以外の事業面でも、他の人たちと協力体制を取れたらもっと効率が上がるはず。営業活動だって、5人くらいでチームを組めば、窓口が5つに増え縁がつながりやすくなるでしょ。やっぱり、僕一人の力では限りがあるから。

——関わる人が増えれば、それだけ縁が増え、より大勢の人と出会えますね。

はい、もし、将来「OMUSUBI」が人気商品になれば、お世話になっている作り手さんたちの収入も安定するし、「OMUSUBI」をきっかけに丹後地方に興味を持って遊びに来たり、移住して農業を始めたりする人が出てくるかもしれない。まだ始まったばかりですが、ジェラートを通して世界中に、宮津の食と人の魅力を届けていきたいです。

text : Ryoko Takeda
photo : Muthumi Tabuchi

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