#くらす
ビール造りからまちづくりへ
大きな循環を目指して
コードロン・ジュリアンさん
2022.11.18
人口20人弱の小さくも美しい世屋地区。2019年に移住してきたコードロン・ジュリアン、展子夫妻は、ゲストハウスを開業する予定がコロナ禍で急遽取りやめに。混乱の中支えになったのは、たくさんの人たちの手助けでした。
助け合って生きてきた小さな村、世屋。その一員になったコードロンさんに、上世屋での暮らしやビール造りに込めた思いについて伺いました。
憧れの暮らしを求めて
――日本語がお上手ですね。日本に住まれて長いんですか?
ありがとうございます。住み始めて5年になりますね。日本に来た当初は京都市に住んでいて、日本語学校に通いながらガイドをしたりレストランで働いたりしていました。そのレストランで妻の展子と出会い、2019年に上世屋へ移住してきました。
――移住されたきっかけは何ですか?
ベルギーで田舎っぽいところに住んでいたので、日本でも田舎暮らしをしたかったんです。薪割りをしたり、自分の畑をつくったり。当時は、自分で作った採れたての食材を提供する“ファームトゥテーブル”ができるカフェを備えたゲストハウスをしたいと思っていました。良い環境を求めて近隣を見て回ったのですが、上世屋には移住した人同士のコミュニティがあり、それがすごく良い雰囲気だなと感じたのが決め手ですね。
――実際に住み始めてどうですか?
とても気に入っています。自然に囲まれた生活が好きなので、見渡せば色々な植物が見られるし、お米やジビエなど食べ物もすごくおいしいです。山菜採りも、村の人に教えてもらったり自分で探してみたりと面白い。草刈りや雪かきなど身体を使うことが多いのは大変だけど、QOL(クオリティオブライフ)は高いと思います。
――とても楽しまれているのが伝わってきます。同じ田舎暮らしで、ベルギーとの違いはありますか?
ベルギーでは村仕事のようなものはほとんどありませんでした。私が住んでいたところでは、大きな通りに面して家が建っており、自分の土地の範囲だけを管理していました。近所の方と仲良くなって一緒にバーベキューすることはありましたね。
――日本は、地方にいくほどみんなで地域の管理をしていますね。
そうですね。移住してきてから、70歳を超える人達が村の色んなところを大きな草刈り機などで整備しているのを見てきました。上世屋の美しい棚田は、人々が長年手をかけて守ってきたものですから、私たちも先輩を見習って村の土地を手入れできるように頑張っていきたいです。
広がる助け合いの輪
――当初はゲストハウスをということでしたが、今はクラフトビール工房を営んでらっしゃいますよね。
そうです。元々計画していたゲストハウスはコロナ禍で断念し、そこからビジネスプランの変更・検討を重ねて、ビール醸造のアイデアが生まれました。私がベルギー時代に趣味でビールの自家醸造をした経験が活かせると考えたのです。しかし、醸造所が完成するまでに2年もかかってしまいました。本当に長い道のりで何度も挫折しそうになりました……。
――どうやって乗り越えられたのですか?
たくさんの人に助けてもらいました。例えば、コロナ禍でやりたかったことはできなくなり貯めていたお金もなくなった時、私たちはとてもナーバスになっていて、上世屋で暮らすのを諦めないといけないかもと思っていました。でも、先輩移住者の小山さんがとても親身に相談に乗ってくれて、「上世屋の暮らしを諦めるのは早いよ」と。今の時点で上世屋で出来ることは何か一緒に考えてくれたり、「いま上世屋にある空き家はここ」と住まいの提案をしてくれたり。小山さん自身とても忙しくしている人なのに、です。
小山さんの田んぼの手伝いをさせてもらいながら、これから私たちにできることは何か、上世屋で生きるとはどういうことかなどを身体を動かし汗を流しながら一緒に考えることができたのはとても良い経験になっています。とてもありがたいことでした。
そうして夫婦で村の皆さんのところでアルバイトをして生活をしているとき、京都北都信用金庫の地方創生部の方が上世屋を見に来てくださる機会がありました。その時私はちょうど田んぼで作業をしていてドロドロでしたが、皆さんは綺麗なスーツに革靴で(笑)。そんな状況ではありましたが、私たちの話をとても熱心に聞いてくださり、後日月々これくらいなら返済できるかもといった資金計画とともに、必要な資金を融資いただけました。
ちなみに醸造所ができた現在は、日々瓶詰めの作業に追われているので、世屋蔵の重田さんが手伝いに来てくれています。
――コミュニティを気に入られたのがわかる気がします。
私が上世屋に初めて来た時にも、先輩移住者で和紙作家の山形さんに案内してもらいましたし、他にもたくさんの方にお世話になりました。もし上世屋で暮らすことに興味を持ってくれる人がいれば、ここにはみんなで助け合えるコミュニティがあるし、頑張れば何とかなると伝えたいです。憧れの暮らしを実践している人たちを見たときの「私たちも頑張ればできるんじゃないか」と思えたあの感覚や、今までの経験を共有したいですね。
土からビールへ、ビールから土へ
――どんなビールを造られているのですか?
丹後半島の豊かな恵みがいきいきと奏でられるベルギースタイルのビールで、ベルギー酵母の味がしっかりと感じられるのが特徴です。ビール造りにあたっては、村での循環をつくりだすことを大切にしています。具体的には、上世屋でとれた材料を使い、製造過程で出た絞りかすを肥料やヤギの餌にするだけでなく、ラベルに至るまで村の人たちとコラボレーションをした商品を産み出しています。
――上世屋をまるごと味わえそうです。
そうです。このビールを飲みながら、大好きな世屋の風景を眺めゆっくりと過ごすのがお気に入りの時間の過ごし方です。実は今、このひとときを皆さんにも味わってほしいという思いから、庭と家の一部をビアガーデンやショップとしてリノベーションするプロジェクトを進めています。
実際に上世屋に来て、色んなことを体験することで、ここで暮らすのは楽しいかもと思ってもらえるような仕組みを作ろうとしています。グラウラーという持ち運び用のボトルにビールを入れて販売する予定なのも、単にゴミを減らすだけでなく積極的に上世屋まで足を運んでもらいたいからです。
――ビールだけでなく、地域をPRしたいと。
はい。私たちKOHACHI Beerworksをハブとして、ビールを買いに来る、もしくはビアガーデンがあるから人が来る。ビアガーデンでは小山さんのジビエを使った料理やおつまみを食べられるし、ちょっと歩いて山形さんの和紙作品を買いに行くこともできます。そうして生まれた繋がりの中から、実際に移住してくれる人がいればとてもいいですよね。
受け入れる、そして工夫する
――移住者はもっと増えてほしいのですね。
もちろんです。まだまだ手は足りていませんし、高齢化が進むともっと足りなくなります。田んぼの周りの草刈りや雪かきなんかは若い人の出番ですし。ここはよく雪が降る地域で、宮津市の除雪車が通らない所は、村の除雪車を使ってみんなで当番を変わりながら雪かきをしています。私は今までスコップでやっていましたが、今年から除雪車デビューの予定です。起きるのは朝5時くらいですね。
――聞くだけでも辛くなってきます。
私は朝が苦手なので大変です。家も改修中なので風が入ってきて超寒い。実は、移住するときに村の長老方から「街からは遠いし、雪はたくさん降るし大丈夫かな」と心配されていたみたいで。今ならその気持ちがわかるようになりました(笑)。
でも、いいこともたくさんありますよ。休憩しながら眺める雪景色はとても綺麗だし、村の子ども達とソリで遊ぶのも楽しい。夏はクーラーもいりませんしね。
――いいことも大変なこともあると。
そうですね。わかってきたのは“ここはそういう場所”だと、ただ受け入れるだけのことなのです。寒かったら厚着をすればいいし、暑ければ川に足をつければいい。厳しい冬があったとしても、それが終われば様々な植物が芽吹きます。上世屋に暮らしはじめてから、山菜は春になって仕事を始める私たちへの山からのプレゼントだと思うようになりました。
――感じ方が変わってきたのですね。
ええ。他にも、宮津に来て出会った、自分が住んでいる街のために頑張ろうとしている人たちの気持ちが理解できるようになってきたのも変化の一つだと思います。以前はちょっと不思議な気持ちで見ていたのですが。
よく考えてみると、人も水も空気も私たちが造るビールの材料だって、今いる環境から与えられているものなので、そういったものを大切にしたいと思うのは当然のことかなと。今私たちは上世屋のことに集中していますが、せっかく宮津に住んでいるのですから、上世屋だけでなく宮津全体がもっと良くなるように何かしていきたいですね。
コードロン夫妻のプロジェクトは、現在MOTION GALLERYでクラウドファンディングを実施中です!ビールを軸にした村のPRをみなさんも応援しませんか。
詳細は下記リンクからご確認ください。
https://motion-gallery.net/projects/kohachi-beer
※「協賛したいけどやり方がわからない」という方は、下記連絡先より直接コンタクト可能です。
◎KOHACHI beerworks
《住所》
京都府宮津市字上世屋411
《電話番号》
050-5532-5021
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